この記事はファンタアドベントカレンダー2023の25日目です。

こんにちは。ファンタラクティブ株式会社CEOの井村です。 ファンタラクティブでは2024年、サービスの幅を広げてUX戦略コンサルティング領域に進出します。 この記事ではその背景の説明をしつつ、UX戦略についての理解を深めて頂ける内容にできればと思っています。

なぜクライアントワークでUX戦略が必要か

早速この記事のタイトルである問いの答えから。 「私たちが関わる以上、事業やサービスを成功させたいから」です。

ファンタラクティブのクライアントワーク事業で関われるサービスは、年間10~20程度と決して多くはありません。 もちろん事業部の人数を増やしてサービス提供範囲を増やす努力はしていきますが、高度な専門性を必要とする仕事だけに爆発的な拡大は難しく今後も直線的な成長を目指しています。 私自身10年以上に渡ってサービス開発の領域を見てきましたが、肌感で9割以上のサービスはうまくいきません。 もちろん成功の定義は多岐にわたりますが、自分たちが関われる数少ないサービスを成功に導きたい、そして低い成功確率を上げることができる鍵がUX戦略だと感じています。

クライアントの成功はファンタラクティブの成功にもつながります。ファンタラクティブのクライアントワーク事業が安定して拡大路線を取れているのは、クライアントとの継続的な関係性を築けているからです。クライアントに稼いでもらって自分たちへの予算を自分たちで作りに行く、そういう動きができればお互いに成長することができ、率直に申し上げて弊社にも利益があります。 逆は、立ち上げのお金は頂けるがその後サービスが成長せず継続できないパターン。私はこれを続けることを「焼畑農業」と勝手に呼んでいます。こうなるとクライアントの顧客満足度が下がり継続的なお付き合いができず、次の顧客を探す新規顧客営業に注力することになります。それではクライアントワーク事業はボラティリティが大きく拡大できる事業にはなりません。

見切り発車は終わりの始まり

10年やってきて思うこととして、「多分伸びないんですよ」「マニアックなので刺さらないかも」と言って始めたサービスは本当に伸びないことに気づきました。それどころか「一定のニーズはあるはず」「この社会課題を解決する」と一定の自信を持って始めても実際に伸びる確率は低いと感じています。

サービスや事業は複雑性が高い。複雑性が高いものの成功に「たまたま」はありません。 そして確信を持つために必要なことが、顧客と顧客に提供できる価値を名言できることと、実際に顧客が存在することを証明すること、これがUX戦略の本質的な目的だと考えています。

私自身、これまで自社でもクライアントワークでも作ることによって前に進む物があると信じて、確信が無いままサービスを作ってローンチすることを何度も経験してきました。でも結果的にそうして産まれたサービスは利益を生まず短期間で閉じていくことになりました。 「とりあえずやってみる」「できるだけ速く」。この言葉自体は良い物だと思いますが、捉え方を間違えていたなと反省しています。

人は実現するまで夢を見る

見切り発車が終わりの始まりだとわかっていても走り出してしまう力学がかかるのには、人間心理のあやがあると思っています。

サービスには時間をかけて製造するフェーズは絶対に必要です。 10年前の日本であればデジタル化されていない領域に対して最低限のクラウドサービスを提供するだけでもメリットになるケースがありましたが、今はほとんどの範囲がデジタル化という視点だけで見るとカバーされている状況です。 0->1にしても、リニューアルにしても、改善や新機能のリリースにしても、複雑性の高い機能群をデザインして実装するには数ヶ月〜1年以上の期間はどれだけ圧縮しても必要です。 なので製造フェーズ自体は私も必要だと思っています。問題はいつ製造に入るか、です。

実現していないものに対して人は夢を見ることができます。 これがあればどれだけ日々の仕事や生活が便利になるか、理想的な妄想を無限に繰り広げることができます。 でも実際に実現したものを触ってみる・使ってみると、元々描いていたものと同じものができていたとしても、夢とのギャップが見えてきます。 実際の生活に馴染まない、意外と利用する機会が少ない、使ったら便利なのはわかっているけどなんだか使い始めるまで腰が重い。などなどうまく説明できないんだけど使わない、ということが発生します。 そこで初めて夢から覚めて「さてここからどうしよう」となるのです。 ※ちなみに誤解を生まないように補足しておくと、このタイミングからでもUX戦略設計はやった方が良いです。

夢と現実のギャップがあるのは当たり前で、そのギャップを埋めるのがUX戦略、もっとわかりやすく言うと「自分が体験してみる」ことと「顧客の声を聞く」ことです。

顧客の声を聞く3つの心得

顧客の声を聞くに当たって私が意識している3つの心得を言葉にしておきます。

1. 仮説を毎回真剣に考える

UX戦略では何度も仮説検証を繰り返します。仮説が枯渇してくると「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」で仮説立案自体が雑になってしまうケースもありますが、仮説自体に「これを検証してみたい」と自分自身が価値を感じていることは必要です。

とは言え、必ずしも時間をかけた仮説が正しいわけでもなく、時に自分が可能性を感じていなかった仮説が顧客に受けることもあります。結果ではなくプロセスとして仮説と真剣に向き合う癖をつけることが重要だと考えています。

2. 自分の声を信じない

真剣に向き合った仮説ほど自分の中で確信を持ててしまい、顧客からのフィードバックを受け入れづらくなるものです。自分の声だけを信じるのであれば顧客の声を必要も無く、UX戦略はそもそも必要ありません。

そもそも人間は他人のことはわかりません。自分の感覚とは違うフィードバックが帰ってきて、そのギャップを埋める作業を繰り返す。ギャップをしっかりと見つめることで顧客理解が深まり事業推進のアイデアに変えることができます。

3. 仮説検証に終わりは無い

インタビューを何回すれば良いのか?UX戦略の本質はそういうことではなく、新しい仮説が生まれた時にフットワーク軽く顧客に話を聞いてフィードバックをもらう。そのサイクルを息をするように当たり前に実行する文化を根付かせることだと考えています。

ただ、その時々によって仮説の粒度は大きく変わるので今どの粒度の仮説を検証したいかを意識することは重要です。事業を大きく左右するような価値も、特定の画面のユーザビリティも、粒度が異なるだけで仮説を設定して顧客の声を聞き検証すること自体に違いはありません。

UX戦略を持った上で思い切って投資する

もちろん戦略があるからと言って確実な成功はありえませんし、一度立てた戦略も時間経過や事業の成長に応じてアップデートしていく必要があります。 ただ、少なくともサービスにニーズがあることは客観的に証明されます。

見切り発車では無いからこそ、エンジニア・デザイナー・営業・カスタマーサポートなど、製造ししっかり価値を返していく組織の拡充に対して自信を持って投資ができます。

プロ野球で長く監督を務められた野村克也監督は、「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし。」という言葉を残しています。自分たちのサービスの価値を検証せずにお金を使うことだけが先行して負けるべくして負ける、そういう勝負はしたくありません。

UX戦略の基本要素についてもう少し具体的に書きます

この記事を読んで頂いている方はUX戦略に興味がある方だと思います。ただ、ここまで読んで頂いてもUX戦略とは具体的に何なのか理解は深まっていないでしょう。 ここからは少し具体的にUX戦略の基本要素について私の理解を書いていきます。

前提として私はオライリー社から出版されている「UX戦略 第2版」をベースにUX戦略を捉えています。

この書籍では「ビジネス戦略」「バリューイノベーション」「検証をともなうユーザー調査」「フリクションレスなUX」がUX戦略の4つの基本要素として挙げられています。

バリュープロポジションはいつでも立ち戻れる場所

ビジネス戦略のアウトプットで個人的に最も重視しているものがバリュープロポジションです。 バリュープロポジションを定める過程で、顧客へのインタビューはもちろん精緻な競合調査も求められます。 シンプルなアウトプットながら自社・顧客・競合他社と異なる目線からの価値を言語化する必要があり、作成するまでのプロセスで事業成長に必要な目線を自然と持たせてくれる優れたフレームワークだなと感じます。

自社が成長して提供できる価値が増えていくのはもちろんのこと、例えばコロナのような外部要因による時流の変化、また新しい競合の誕生など、バリュープロポジションの周辺環境は常に変化していきます。そのため、バリュープロポジションは一度制定して置いておくものではなく定期的な見直しが求められます。

実際に詳細な要件定義や開発が始まると視野は狭くなりがちですが、バリュープロポジションを定めておくことで、チーム全員による定期的な根本価値への立ち戻りや、やる/やらないことのブレない意思決定を行えます。

Airbnbでバリューイノベーションを理解する

2つめの基本要素、バリューイノベーションについて触れます。UX戦略に詳しい方以外あまり聞いたことの無い単語なのではないでしょうか? 概念だけで理解するのは難しいと感じているので、オライリーの本でも例に挙がっているAirbnbを例に取ってバリューイノベーションについて考えてみます。

そのサービスがある場合と無かった場合でユーザーに提供できる価値が革新的に変わってしまう事象がバリューイノベーションです。

Airbnbが無い時代、宿泊の選択肢はホテルや旅館でした。もちろんプロフェッショナルによる高品質なサービスが提供されますが、その分費用もかかる贅沢なものだという認識があります。またインバウンド需要が増えた日本では宿の数が足りなくなる事象も発生しています。ホテルの建設も進んでいますが短期間で大きく増減できるものではありません。

一方Airbnbがあることで、宿の選択肢に民家が加わりました。民家の数はホテルの数とは比べ物になりません。宿のキャパシティとしては理論上飛躍的に増えることになります。結果的に費用も安く泊まれるケースが多く、大人数で一気に泊まりたいケースや家に住む感覚で長期滞在したいニーズなどにも応えることができるようになりました。 また、ホストが民泊を提供することでお金を稼げるという新しい価値も生み出しています。

Airbnbが起こしたバリューイノベーションによってユーザーの選択肢は増えましたが、一方でホテルや旅館の価値が無くなったわけでもありません。革新的な価値を自社サービスに持たせることで、既存の競合とは一線を画す顧客から選ばれるサービスをデザインすることが可能になります。

仮説、検証したいこと、検証後のアクションを言語化しておく

3つめの基本要素は検証をともなうユーザー調査。顧客の声を聞くことについてはここまで多く書いてきたのでもう一点重要だと思っていることを述べておきます。

仮説を設定しそれをユーザーに当ててみるというサイクルを繰り返すのですが、仮説やそれに対して何を検証したいのか、そして検証した後の結果によってどういうアクションをするつもりなのかをユーザーに当てる・調査する前に言語化しておくことが重要だと考えています。

実際に仮説検証のサイクルを回してみて良く目にするのが、何人くらいに聞けばよいのか、どんな人に聞けばよいのか、アンケートを取るべきか、など手法に目が行き過ぎてしまうケースです。検証したいことによって手法を選択していくのがベストなのであくまでその点をしっかりと言語化しておくことでチームの議論ポイントを本質的な部分に持っていくことができます。

フリクションレスなUXは画面に収まらない

最後の基本要素はフリクションレスなUX。フリクションは日本語で言うと「摩擦」。 アプリケーションやWebサイトを含めた一連のユーザー体験を想像してその中でのつまづきどころ=フリクションを想像します。

フリクションレスなUXを意識することでチームの意識としても良くなると思う点が、UIに閉じずに体験を想像する目線が身につくこと。どうしてもUIデザインや開発のスコープに目が行くと、作ることには議論が集まりますが、実際に使う人間の体験については議論が為されない状況が発生します。同じ機能が提供されていたとしても、アプリケーション操作時とそれ以外のリアル体験も含めた行動にフリクションが少ないサービスの方がより多くの人に利用され好まれます。

UX戦略設計に大きな費用をかける必要は無い

ここまで読んで頂きありがとうございました。 最後に締めくくりと少し弊社のサービスを紹介させてください。

戦略コンサルティングと言うと高額なサービスの一つではありますが、ファンタラクティブでは月額50万円(0.5人月稼働を想定)からUX戦略コンサルティングを提供します。 先に述べたように製造やその後の改善フェーズでは必ず多くの人員や期間を必要とします。そこで中途半端にコストを絞ってしまっては製造フェーズで頓挫してしまいます。

UX戦略は、チームが自信を持って大きな投資をすることを後押ししてくれる存在であり、できれば少人数かつコストも少なく進められるに越したことはありません。大企業であれスタートアップであれ、費用と期間を定めてまず製造、という意思決定が為されるケースが少なくないと感じますが、作る前にまずUX戦略設計の時期を取ることを個人的にはオススメします。 UX戦略設計は不確定要素も多いフェーズなので事前に期間を決めてから取り組むよりは1~6ヶ月位の範囲を大まかに定めて取り組むのが適していると考えます。

弊社ではUX戦略設計からスムーズな製造への移行、またリリース後含めてどのタイミングでも戦略設計に加わることが可能です。無料お悩み相談も行っておりますのでお気軽にご利用頂けたらと思います。

ファンタラクティブアドベントカレンダーはこの記事で終了ですが、他の記事も読み応えありますのでぜひご覧ください!